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【スクラップヤード許可制】千葉から全国へ

高速道路が利用しやすく、輸出の際には千葉港を使える関東屈指の物流地域・千葉県。その中でも千葉市内には93もの再生資源物のための屋外保管施設(金属スクラップヤード)があり、うち16のヤードについて騒音・振動、不適切な保管に対する苦情が寄せられています。ヤード付近の住民が測定すると、朝からパチンコ店の店内と同程度の騒音を出していました。

そこで、千葉市では2022(令和3)年11月1日に「千葉市再生資源物の屋外保管に関する条例」が施行されたというのは、以前にも本稿でお伝えした通りです。こうしてスクラップヤードの管理基準が変わり、その動きが他の地域にも広がりました。このページでは、千葉市から始まったスクラップヤードの許可制、他県、全国への波及効果に関しまとめてみます。

なぜ、千葉にスクラップヤードが集中するのか

現地調査や業界団体等へのヒアリング、ヒアリングを踏まえて文献等の調査を行った結果、次の要因が明らかになりました。まず、金属スクラップ等の購入・売却(輸出)するための立地条件が良いことが挙げられます。首都圏では解体工事の件数が多く、多量の金属スクラップが発生します。また、千葉県臨海部の石油コンビナートから多くの不要品(規格外品)プラスチックが発生することなどからも、千葉県は買い付けの利便性が高いのです。金属スクラップの輸出時に使用される「ドライバルク船」の便が千葉港や横浜港で多く、プラスチックを輸出する際に使用される「コンテナ船」の便が東京港と横浜港で多いため、千葉県は輸出の利便性も高いことがわかります。

市区町村の枠を超え、千葉県での条例制定へ

千葉県内では、千葉市に加えて、袖ケ浦市でも令和5年4月に条例が施行されていましたが、都道府県では初の試みとして、ヤードの規制条例を設けることになりました。来年(令和6)4月には施行されます。県内のヤードは約3分の1が危険な状態にあり、火災や崩落など事故のおそれがあると見られていました。

しかし、これまではヤードの事業運営を直接規制する法令等がないため、県内における事業の実態を正確に把握することが困難であったといいます。

出典:千葉県金属スクラップヤード等適正化条例」有識者会議

千葉市条例と千葉県条例のちがい

再生資源物の屋外保管や、土地所有者による屋外保管場の譲渡・使用に際しての安全確認、紛争発生時の解決を「義務」とする千葉市の条例に対して、厳しすぎるのではという意見もありました。千葉県では、同様の事項に関して「努力義務」というやや柔らかい表現が用いられるようになっています。違反した場合の罰則についても、千葉市では、昨年(令和4)5月から「両罰規定あり」「刑事訴訟に関する法律の規定を準用あり」としていますが、千葉県の罰則にはそのような記載がありません。1年間にわたり実態調査を行い、ムダなく実態に即した内容にするという方針のもと、県の新条例が作られています。

千葉県千葉市
条例の目的金属及びプラスチックの再資源化の適正な実施を図るため、必要な規制を行うことにより、県民の生活環境の保全上の支障の防止を図る再生資源物の屋外における適正な保管について、必要な事項を定め、市民生活の安全の確保及び生活環境の保全に寄与する
資源物の定義特定再生資源
→金属、プラスチック
再生資源物
→木材、ゴム、金属、ガラス、コンクリート、陶磁器、プラスチックその他これらに類するもの及び混合物
保管業者の責務・火災の発生、崩落等の未然防止
・生活環境の保全上の支障が生じないよう努める 
【努力義務】
・規定に沿った適正な屋外保管
・法令等に従った屋外保管事業場の適正管理
・屋外保管事業場を設置しようとするものは、所有者へ説明が必要
・苦情・紛争が生じた時は、誠意をもって解決が必要 
【義務】
土地所有者の責務・土地所有者(権限者)は、屋外保管業を行おうとする者に土地を提供しようとするときは、保管物の崩落等の未然防止、生活環境の保全上の支障が生じないようにしていることを確認する
・上記対策を講じていない場合は、当該土地を提供しないように努める
【努力義務】
・土地所有者は、屋外保管事業場として土地を譲渡、又は使用させようとするときは、市民生活の安全上及び生活環境の保全上支障がないことを確認しなければならない
・土地所有者は、屋外保管事業場に係る苦情又は紛争が生じたときは、誠意をもって、その解決に当たらなければならない
【義務】
住民周知規則で定めた内容に基づき、周辺住民に対して「説明会の開催、その他屋外保管業の内容を周知させる為の必要な措置を講じることが必要
【義務】
※保管場所の周囲300m以内の住民が対象
・許可申請をしようとするものは、当該許可を申請する日の1カ月前までに屋外保管場の周辺住民に対して、「周知事項」を周知させるための説明会を開催しなければならない 
【義務】

・責めに帰することができない事由により、説明会を開催できない場合は、当該許可の申請をする日の2週間前までに「周知事項」を周辺住民に周知させる必要な措置を講じなければならない
【義務】

※保管事業場からおおむね半径300m以内の住所、土地、建物を有するものが対象
立地基準なし・住宅等から屋外保管事業場の敷地境界までの距離が100m以上あること
・土地の地形、地質等が市民生活及び生活環境の保全上の支障がないこと
現場責任者現場責任者の設置必要【義務】現場責任者の設置不要

今回の条例は有価物を対象とすることが前提です。千葉県は、廃棄物処理法とのバランスを考え、廃棄物の取り扱いより厳しくならないよう制定しました。特に、立地基準については、住宅から屋外保管場所の敷地境界までの距離制限がありません。廃棄物処理施設の場合でも民家の100m以内に設置できますので、廃棄物の取り扱いより厳しくならないように配慮しています。また、火災の発生防止、生活環境保全上について、努力義務になっているのは、他法令(騒音規制法・振動規制法・消防法等)に抵触しないよう考えられていますし、資源物の定義についても、実態調査の結果、再資源化されているのは、金属、廃プラだけだったという結果に基づいています。

埼玉から国家へ、環境大臣への要望

埼玉県内でも金属スクラップヤードに関する数々の苦情と、改善を求める声が上がっています。

令和5年10月5日、大野元裕埼玉県知事が、伊藤信太郎環境大臣へ要望を行いました。要望内容は「金属スクラップ等の再生資源物の屋外保管及び処分に関する法整備」でした。埼玉県内では、昨年(令和4)7月より、川口市のみが同様の条例を施行しています。対象は土石や廃棄物を含む資材置き場で、新設は許可制ですが、許可を取った事業者は1件だけといいます。

 大野知事は議会での答弁でも「条例では罰則の上限があり、十分な抑止力にならない。規制がない自治体に移ることも考えられる」と話し、近隣県と協力して国に対応を求める考えを強調しました。
 さいたま市も令和5年12月に条令案を議会に提出し、来年2月施行を目指しているようです。

~おわりに~

千葉市をはじめ、全国的に広がっている金属スクラップヤード。なぜ同じような施設が急増しているのか?これには中国で廃プラと、金属スクラップの輸入が全面禁止されたことが影響しています。しかし中国が長年、金属スクラップの無選別な受け入れをしていたのをいいことに、日本の処理業者は中国を輸出先として頼っていました。そして解体・選別のノウハウを次世代に継承してこなかった結果、最近は騒音・振動・汚染など、ヤードの問題が多発しているとも言えます。

金属スクラップの管理には国家レベルで法律を定め、これからは輸出に頼らない、新しい時代の「自立型」リサイクルについても日本全体で取り組むことが求められています。

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